鳥籠(トリカゴヒメ)(ウタ)う 




無道夫妻殺害時についての問診記録
無道朝咲(夜散)の面接記録より



「無道朝咲ちゃん、君が話せる範囲で良いんだ。あの夜のことを教えてくれないかな?」
あの夜…

「君が、とても痛い思いをした夜のことだよ。」
それは、どの夜…?

「夜散くんと咲夜くんが、大事なものを無くした夜のこと。」
ママが、要らないって怒った日?

「うん、そうだよ。ママは、何を要らないって言ってたんだい?」
ママはね、いつも要らないって言ってたのよ。
朝咲も、さくちゃんも、ちるくんも。
みんな要らないんだって。

「ママは、君たちを要らないって言ったのかい?」
本当に欲しかったのは、朝咲が殺した散朝だけだったんだって。
だから朝咲は、散朝に帰ってきてもらおうと思ったの。

「散朝に帰ってきてもらおうと思ったのかい?」
うん。

「それで、朝咲ちゃんはどうしようとしたのかな?」
ちるくんとさくちゃんにね、お願いしたの。

「何をお願いしたんだい?」
散朝を…

「散朝を?」
でも、パパとママはね、物凄く怒ったのよ。

「朝咲ちゃんに?」
朝咲と、ちるくんと、さくちゃんに。

「怒ったパパは、どうした?」
最初にパパがね、朝咲を寝室に閉じ込めたの。

「最初はパパしかいなかった?」
うん。
パパが、部屋の外から、ちるくんとさくちゃんを怒る声が聞こえたわ。
それと、途中からママの声も。

「ママは、後から帰ってきたの?」
うん。

「それで、パパとママは、どうしてそんなに怒っていたんだい?」
わかんない。
でも、パパの声が怖い理由が、朝咲には分らなかったの。
だから聞こうと思って、寝室を出ようとしたらね、ママが居て。

「ママは朝咲ちゃんをどうしたの?」
ママは朝咲を見て、凄く怖い顔になったの。
それからキッチンに行って包丁を持って帰ってきた。

「君は、それをずっと見ていた?」
ずっとは見てなかった。
さくちゃんとちるくんが、心配で…
でも気付いたらママがそこにいて。

「ママの様子はどんな感じだった?」
いつもと同じよ。

「包丁を持っていたのに?」
だって、包丁は毎日使うわ。

「じゃあ、君は包丁を持ったママを見て、どう思ったんだい?」
今日は何に使うのかなって…。
でも分らなかったから、どうするのって聞こうとしたの。
そしたら、ママはその前に朝咲のお腹にぐさって。

「普段のママは、包丁をどんなことに使っていた?」
お料理とか…

「他には?」
良く覚えてないの。

「ママにお腹を刺されたとき、どう思った?」
凄く哀しかった。

「ママが憎かった?」
分らないわ。

「痛かったね?」
そうだったかしら…?

「朝咲ちゃんを刺した後、ママは…、いや、君はどうしたんだい?」
ママはすぐにパパのところにいっちゃって、朝咲は動けなくて、置いてかれて、ドアのところにいたの。
パパとママはリビングにいて、ちるくんとさくちゃんを殴ってた。

「夜散君と咲夜君は、たくさん殴られていた?」
たくさん、たくさん、殴られてたわ。
でも、二人とも、朝咲のお腹に包丁が生えてるのに気付いて、凄く怒った。

「夜散君と、咲夜君だね。怒った二人は、どうした?」
叫んでた。
でも、パパとママには敵わなくて、また殴られて。

「それは、朝咲ちゃんも怖かったね。」
パパはね、ちるくんを何度も何度も殴ってたのよ。
耳が、切れてね、凄く痛そうだった。
さくちゃんの顔を掴んだママは、もっと酷かった。
指をね、さくちゃんの眼にぐさってして…。
でも、ちるくんもさくちゃんも笑ってた。

「どんな風に笑ってた?」
凄い声を上げて、笑ってた。
でも、本当は泣きたかったんじゃないかな…。

「どうしてそう思ったんだい?」
耳と目を取られたら、先生は面白い?

「――朝咲ちゃん、」
パパとママもね、笑ってた。
凄く凄くわらって、最後に『なんで?』って言って、

「何でって、言っていたんだ…」
うん。
『なんで?』って言って、泣いてた。 パパとママも、哀しかったのかな…?

「朝咲ちゃんには、そう感じたんだね。」
朝咲は、ただ怖かっただけだよ。
パパもママも、ちるくんもさくちゃんも、みんな壊れちゃったのかと思って、凄く怖かったの。
止めなきゃいけないんだって、思ったわ。
だから、お腹の包丁を抜いて、パパの背中を刺したの。

「君が、パパを刺したのかい?」
パパが倒れて、その向こうでママとちるくんとさくちゃんが、凄く驚いてた。
でもママはすぐにまた怖い顔してね、朝咲に近づいてきた。
だから、ママに包丁を返したわ。

「返したってことは、つまり、」
お腹に、返したの。
朝咲とお揃いよ。

「じゃあ、ママを刺したのも君なのか?」
でも、ママは多分気付いてなくて、朝咲を殴ったの。
そうしたら、さくちゃんがね、ママのお腹の包丁を抜いて、ぐさぐさぐさって。
動かなくなったママをみて、ちるくんがね、あれもまだおわってないって。
寝室に逃げようとしてたパパを指差してた。
さくちゃんが、包丁を渡して。

「朝咲ちゃん、君は…」
ちるくんとさくちゃん、笑いながら泣いてた。
パパとママも、泣いたままもう動かなかった。
でも、朝咲はそこから先はあんまり覚えてないの。
お腹が、物凄く痛くなって、きっと朝咲も泣いてたんだわ…。










「朝咲ちゃん、最後に聞きたいんだけど、いいかな?」
――なぁに?
(遊離しているような状態で30分ほどしてから、反応があった)

「君に、『悪いこと』をしたのが誰か、覚えている?」
わるいこと…?

「――………。」
誰も、朝咲に悪いことなんてしていないわ。

「それじゃあ、君に『気持ちいいこと』をしたのが誰かは、知っている?」
気持ちがいいことって、なに?


面接時間 約3時間43分





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2009/11/04


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