無道夫妻殺害時についての問診記録 無道夜散(朝咲)の面接記録より
「今日は、聞きたいことがあるんだ。」 どうして咲夜の眼を潰したか? 「それも聞きたいところだけどね。少し違う。君も、お母さんとお父さんが兄妹だということを知っていたのかい?」 お前、馬鹿なのか? 日本じゃ兄妹は結婚なんて出来ない。 「――そうだね。そのとお」 それに、俺たちに父親はいない。 家族は咲夜と、朝咲と、朔だけだ。 「無道朔さんのことは、知ってるんだね?」 知ってるも何も、母親だ。 ずっと入院してる。 「お父さんは、」 父親はいない。 「分った。お父さんはどうしていないのか教えてくれるかい?」 そんなの僕が知ってるわけない。 「それじゃあ、君の家に一緒に住んでいた無道藍音さんと無道朱音さんは知っているかい?」 ああ、あのうるさい女とクソ野郎。 「どうして君の家に一緒に住んでたんだい?」 知るかよ。 気付いたら其処に居たんだ。 「そうか、分った。もう一ついいかな? ―――(返事を待ったが、睨むばかりで応えない) 「君は、どうして『夜散』と名乗っているんだい?」 僕が、『夜散』だからだ。 それ以外に何がある? 「――何も無いね。君の名前が『夜散』なら、それは何もおかしくないことだ。」 分ってるなら、そんなくだらないこと聞くな。 「じゃあ、無道散朝ちゃ」 知らない。 「――まだ、最後まで言ってないよ?」 無道散朝は生まれたときに死んだ。 『夜散』が殺した。 だから知らない。 「君が、殺した?それとも、『夜散』が、殺した?」 (こちらを見て笑うだけで答えない) 「――分った。それじゃあいい。」 ほかは? 「ほか?ああ、そうだね。それじゃあ、何故、咲夜君の眼を潰したのか聞いてもいいかな?」 目が治ったら、咲夜を守るものがなくなるから。 「咲夜君を守るために目を潰した?」 他にどんな理由があるんだ? 咲夜は優しいから、僕らが無事なら自分はどうでもいいと思ってる。 でも、そんなのおかしい。 「それは、外には君たちを脅かすものが溢れてるってこと?」 あいつらが死んだって、世界は簡単には変わったりしない。 「あいつらというのは、君のお父さんとお母さんのことかな?」 あれが何かは、知らない。 親は、いないって言ってるだろ?! 「そうだった、悪かったね。君たちは、ずっと脅かされてきたのかい?」 ――それを言えば朝咲が傷付く。 朝咲に傷が付くから、だからそれは秘密なんだ。 「朝咲ちゃんが?」 そうさ、朝咲はいつだって一番苦しめられてる。 なのに誰も気付かない。 気付いたって、誰も助けない。 あの女もそうだった! 「あの女というのは?」 朝咲を刺した女だよ! あれはあの夜に、初めてそれに気付いた。 なのにあいつは自分に興味を示さなくなったのは朝咲のせいだって言って、朝咲を刺したんだ! 「あの夜のことだね。」 そうさ。 それを、あの男が止めようとして、女を刺さした。 それだけが、唯一らしいことだったかもな。 「無道藍音さんが、無道朱音さんを刺した?」 最初は咲夜が朝咲を助けようとしたんだ。 だけどあいつはそれが気に入らなかったんだ。 だって今度は、何を血迷ったのか朝咲と咲夜に包丁を向けたんだぜ? だから僕はあいつが二人も殺すんじゃないかと思って、あの男からそれを奪おうとしたんだ。 「それというのは、包丁のこと?」 それ以外に何があるんだよ。 「最初から、包丁を奪うためだけに無道藍音さんに飛びかかったのかい?」 馬鹿なこと聞くんだな、お前。 目の前の男が家族を殺そうとしてたら、お前どうするんだ? 僕は殺すつもりで飛び掛った。 じゃなきゃこっちが殺られる。 現に僕は、思いっきり殴り飛ばされて吹っ飛んだし、あの男は止まらなかった。 「その時は、君はもう包丁を奪っていたのかい?」 知らない、そんなの。 もう一度あいつを見たときには咲夜が飛び掛っていて、でも一瞬後には咲夜の顔が真っ赤になってた。 「真っ赤、っていうと、」 あの男も何か叫んでたな。 ザマァみろだ。 僕はそれを見て、そう思ったんだ。 笑ったと思うよ。 何だか凄く楽しかったんだ。 咲夜が顔を押さえて僕を見てた。 咲夜も笑ってるように見えた。 「君は、それからどうした?」 振り返ったら、あの男はまた僕の髪を掴んで殴ろうとしてた。 今度は大人しく殴られるなんてごめんだったから、あいつの腹に刺さってた包丁を抜いて、もう一度刺してやった。 「その時には、包丁は無道藍音に刺さっていたんだね?」 腹から抜いたんだからそうだろ? 何度も何度も刺した。 で、そのあとに女の方も刺した。 「それは、どうして刺そうと思ったんだい?無道朱音はもう、亡くなっていたんだろう?」 なんでだって? どうしてそんな馬鹿げたことを聞くんだよ? だって、あいつら、朝咲を刺したんだぜ? 「あいつら?無道藍音も、朝咲ちゃんを刺したのかい?」 僕の朝咲と咲夜を傷付けた。 許せないよね。 もう許さなくていいよね。 だから、当然の報いなんだよ。 清々した。 だって、 「だって?」 『死人にクチナシ』って言葉を、知ってるか? 「知っているよ。君は、」 あいつらが死んだ時点で、あれが被害者ってことになった。 生き残った僕らが加害者だ。 何を話したって何度だって「嘘をつくな」って言われるんだ。 生き残った僕らが如何にも怪しいから。 「それで、『死人に口無し』なのかい?」 そうさ。 それなら僕たちは最初から何も話さなくたっていいじゃないか。 あんたたちが好きに結論付けてしまえばいいんだ。 僕達はそれを否定しない。 「だけど、それじゃあ何も解決しない。そうだろう?」 解決ならしただろ?! 僕たちは殺したことを認めたじゃないか! だから早く牢屋にぶち込めよ! それで全部おわりだろ?! そうなれば、もう誰も僕たちを殴らないし殺さない! 早く朝咲と咲夜を安全なところに居れて、もう誰も近づけるなよ!! 「夜散くん、落ち着くんだ!」 今まで誰も僕たちのためには動いてくれなかったのに、どうして死んだってだけでみんなあいつらのためには動くんだ! なんでそんな奴らのために俺たちが協力しなくちゃいけないんだよ! お前たちみんな、あとどれだけ僕らを苦しめれば気が済むんだよ! (無道夜散が暴れだしたため、面接は中断となった) 面接時間 57分 |