Eyes on Me







Act.46 : Till tears die

 解 禁 区 





 がちゃがちゃと音を立てて銃をバラしているウォルフの向かい側に座って、ピジョン・ブラッドは彼の黒い眼を見る。


「それ、仕事道具?」
「あぁ。」


 必要以上応えない会話も、最近では随分慣れたように思う。
ピジョン・ブラッドも、もともと忙しく口を動かしているような性格でもない。
『彼』といるときは、それに対して苦笑を浮かべられたりもしたから、話さなくてはとも思ったりしたこともあったが、彼はそれを咎めることもなく、そもそもピジョン・ブラッド以上に無駄口を叩くことがない。
『彼』と似ている場所もあれば、確かに違う人であるのだな、と。ピジョン・ブラッドは思い知らされるばかりだ。
 このときもピジョン・ブラッドは、それ以上彼の言葉など期待していなかったし、この男も彼女がよもや微笑しながら会話を続けることなど期待していない。
 意図せずとも幕を下ろした沈黙の中で、おもむろに銃を手に取り、引き金に手をかけた。


「これを使えば、僕でも人を狩れる?」


 目の前の男に、ぴたりと照準を合わせる。
だが、ピジョン・ブラッドの視界の中では、眼の中に焼き付いた『彼』が居た。


「狩りたい奴がいるのか?」
「分からない。」


 男の言葉に、ピジョン・ブラッドは打てば響くようなリズムをもってを返す。
ピジョン・ブラッドは、本当に分からなかったから。
『彼』を殺したいのか。『彼』に殺されたいのか。
ただ一つ分かっているのは、『彼』のモノでいたいと、ただそれだけ。
 ピジョン・ブラッドにとってはそれが全てであり、生きているか死んでいるかは、それほど重要じゃない様に思えた。
ただ、死ぬのなら、『彼』の手で。生きるなら、『彼』の元で。
それ以外には、願望も欲求も彼女の中には存在していない。
 そばに、居たい。胸が、痛い。


「なら、持っていても意味がないだろう。返せ。」


 瞬間的に遊離していたピジョン・ブラッドを、男の言葉が現実に引き戻す。
ピジョン・ブラッドが構えたままの照準の先にいたのは、もう『彼』の姿ではなく、よく似た別の男のの姿だった。


「それじゃあ、殺したい相手が出来たら、僕にも狩りを教えてくれる?」


 『彼』が、サファイアには教えたのに、ピジョン・ブラッドには教えなかったものの一つが、狩の仕方だった。
 サファイアはローズ・クォーツを狩った事に酷く衝撃を受けていたが、ピジョン・ブラッドはそれを、羨ましいとさえ思ったのだから。
ローズはピジョン・ブラッドの妹でもあったのに、彼女は欠片も哀しいとは思えなかった。
 自分は、なんて、酷いイキモノなのだろう、と。
ピジョン・ブラッドは自嘲気味に薄い笑みを頬に刻む。


「お前みたいな小兎は、狩る前に狩られるのがオチだ。俺が殺った方が早い。」


 ピジョン・ブラッドの言葉に、男は呆れるような溜息を吐いて言った。
そのまま、ピジョン・ブラッドの手の中の銃を掴み、自分の仕事道具を取り返す。
意地になるほどのことでもなかったから、ピジョン・ブラッドはそのまま素直に銃を離した。
 可愛くない言葉と一緒に。


「それじゃあその時が来たら、頼むことにする。」






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2008/11/21   再UP




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