Eyes on Me







Act.43 : You should disappear entirely

 解 禁 区 





 ピジョン・ブラッドは、彼の夢を視ていた。
それは、遠い幻想のような、近い現実だ。
それに気付けなかったのは、ピジョン・ブラッドがそれを望んでいいのか分からなかったからだろう。
 朝、眼が覚めてベッドの上で体を起すと、彼はもう起きていて、何をするでもなく窓の外を見ている。


「何を、見ているんですか?」


 ピジョン・ブラッドが聞くと、彼は微笑んで振り返る。
 それは、何か大切なモノを慈しむ眼だ。
奈落のような、底無し沼のようなその黒には、似合わない光りなのに、彼はまた、その光りを燈して窓の外を見る。


「本当に可愛いと思わない?」


 楽しそうな声。
 ピジョン・ブラッドがけだるげな身体を持ち上げて窓に近づき、彼の視線を辿ると、そこには二人の子供が居た。
サファイアと、ローズ・クォーツ。
二人は中庭に出て、綺麗に整えられた芝生の上に座り込んでいた。
サファイアが盲目のローズ・クォーツの為に取ってきたのか、二人の周囲には摘まれたらしい花が散っている。
 太陽はもうすでに高い位置まで昇っていた。
ピジョン・ブラッドとウォルフは随分遅くまで眠っていたらしい。
ぼんやりと、思考を別の所へ飛ばそうとしていたピジョン・ブラッドの聴覚に、彼の声が浸透してくる。


「サファイアのああいう所が、そっくりだ。」


 意識したことは一度も無かったが、それはピジョン・ブラッドが一番触れたくない場所の話だった。
 苦い微笑みを浮べて呟いた彼にゆるりと視線を向けたが、しかしピジョン・ブラッドは「誰に?」とは、聞かないでおいた。
それが懸命な判断というものだろう。
彼にとっても、自分にとっても。


「ウォルフはサファイアが好きなんですね?」


 もう一度、窓の外の二人の子供に視線を放って、ピジョン・ブラッドは静かに呟く。
ピジョン・ブラッドの言葉に、彼は意表を突かれたような表情で、ほんの少し考え込んでから応えた。


「嫌いじゃ、ないかな?」


 それではこの男は、自覚していないだけなのだろう、と。
ピジョン・ブラッドはそう結論付けた。
 その結論に、少し胸のあたりがじりじりする。
恐らくこの子供も、自覚していないだけなのだろう。
それに気付いたわけではないだろうが、彼は僅かに眼を細めて同胞を見遣るピジョン・ブラッドに、少しだけ笑いかけた。


「もちろん、僕は君のことも愛しているよ。」


 優しく微笑んで、彼は思い出したように言い、ピジョン・ブラッドという名前の由来となった紅い眼と唇にキスをした。
 そこで、遠い記憶の夢はぷつりと途切れる。
特別幸せな瞬間でも、特別不幸な瞬間でもない、記憶の一部を再生しただけのその夢。
 だけどピジョン・ブラッドには分かっていたのだ。
このときから自分は、胸に不愉快な熱を灯して二人を見ていた、と、いうことを。






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2008/11/07   再UP




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