Eyes on Me







Act.35 : Run out even if say "love" how many times

 禁 断 区 





 義父と妥協をし、彼は定期的に彼女と対面することを許された。
おかしな話だ、と。彼は思う。
 恋人が逢瀬をするのに、その父親が反対することは珍しくも無いとしても、彼らは家族として会う事さえままならなくなったわけだ。
 原因を作ったことに自覚がある以上、彼が文句を言えるはずも無かったが、苛立ちが募ることはどうしようもない。
否、大いに文句も口にしていたのだが。
それでも、彼女に会える時間があるからこそ、彼は自身が自覚している以上に消耗している、両親との徹底的な対立を堪えていたのだ。


「大分参っているわね。」
「全くだ。あの二人があんなに頑固だとは思ってなかった。」


 たまの逢瀬で彼女と話すことは、取り止めの無いことばかりだ。
相変わらずベッドの上で、彼女は微笑む。
別に、妊娠は病気じゃないのにね、というのが、この頃の口癖だ。
 会う度に大きくなっている彼女の腹を、彼は物珍しそうに見つめたり、両親の意見はまだ変わらないと愚痴ったり、それこそ危機感なんて微塵も無いような会話ばかりで。
 その幸せな時間にヒビが入っていると彼が気付いたのは、法的にはもう堕胎が許されなくなってからだった。
 その頃の彼女は、酷く混乱しているようでいて、同時に興奮状態に陥っているように見えた。


「大丈夫よ。あと少し。あと少しで生まれるわ。」


 いつも口にする言葉も、普段なら彼を励ます為の言葉なのに、この時は自分に言い聞かせるように繰り返していたのだ。
そしてそれは、励ますというよりは暗示をかけるような響きに近い。


「エヴァ?」


 彼が怪訝そうにその名前を呼んでも、彼女はまるで気付く気配も無い。
 酷く怯えたような口調で、彼女は引き攣った笑みを浮べていた。


「子供が産まれたら、私達の勝ちよ。そうしたらこの家を出ましょう。三人でこの家から離れて、どこか静かな場所で幸せになりましょう。」


 反駁を許さない追い詰められたような声に、彼は頷いて彼女を抱きしめることしか出来なかった。
それはもちろん、彼自身も望んでいることであったから、依存など無い。
無いのだが、彼の脳裏では警告音にも似た音が激しく鳴り響いていた。
その原因が何なのか知る由もないまま、彼は彼女を抱きしめて、今にも眼球が潰れてしまいそうな程に瞼を固く閉じているその眼にキスをした。
彼女はその感触にも気付かない程、何かに怯えたまま…。






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2008/10/06   再UP




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