Eyes on Me







Act.27 : Like a trammel to keep your life as

 保 護 区 





 悪夢は直ぐに始まった。
それまでが既に悪夢の中に存在しているなんて、この世界しか知らないサファイアには知りもしなかったけれど。
 夜は眠れない。眠れるはずが無い。
サファイアの手にはまだ、ローズ・クォーツを撃った時の衝撃が残っている。
気を失っていたはずなのに、眼を閉じると瞼の裏は、飛び散った鮮血に支配されてしまう。
錯乱したように跳び起きて、恐怖と嫌悪のあまりに泣き崩れて、いつの間にか眠ってしまう。
その短いサイクルを、この後何度繰り返せば自分が自分を許す日が来るのか、サファイアには見当もつかない。
 顔に手を当ててみる。
濡れているのは涙の所為なのか、思考回路がまわらなかった。


 ローズ、ローズ、ローズ。
僕の大事な妹のローズ・クォーツ。


 サファイアは張り裂けんばかりの声にならない声でローズ・クォーツの名を呼ぶ。
この世界に生み落とされたその瞬間にだって、こんなに泣いたことは無かった。
 その瞬間というのが、精祖細胞と卵祖細胞が出会った瞬間を指すのか、硝子と人工羊水に抱かれた温かくも無機物の子宮から出された瞬間を指すのかは、サファイアには分からなかったけれど。
ジザベルが死んでしまった時だって、こんなに、まるで世界の終わりが来たような泣き方はしなかった。
それは、ローズ・クォーツとは違って、心の何処かが彼女の死を確定していたからもあるのだろうけれど。
 自分が妹を殺した。
自分がこの手で、ローズ・クォーツを生き物からただの肉塊に変えたのだ。
その変えようも無い形で突き付けられた真実が、寒くて、苦しくて、悲しくて。
どうしたらいいのか分からなくて、サファイアはただひたすら泣いていた。
それに、手を差し伸べるように眼の前に現れたたのは、紅い眼の天使だった。


「サファイア、博士が呼んでる。」


 紅い眼の天使が告げた神様のお召し。
サファイアには拒否する理由も権利も無い。
 救いの天使にも見えたピジョン・ブラッドが突き付けたのは、判決が決まっている裁判への出頭命令であった。






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2008/09/08   再UP




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