Eyes on Me
Act.22 : I do not believe the end of the dream
保 護 区
所詮人形などニセモノ。彼の為のミセモノ。だからいつかはウセモノ。それでも彼はクセモノ。 あの時、彼ははサファイア僕にこう言った。 「見てごらん、サファイア。綺麗な深紅だろう?最高級の色だよ。」 彼の腕に抱かれた子供は、怖いくらいに綺麗な紅い眼で、泣きもせずにサファイアを見る。 今まさに生まれたばかりのその子から眼を離して、サファイアは急くように博士に問い掛ける。 「博士、ジザは?」 「中にいるよ。」 笑顔のまま彼は言って、サファイアは半分閉じていた扉の向こうの薄暗い世界に飛び込んでいった。 「君は最高級の眼をしているから、最高級の名前を付けようね。」 彼の声を背中で聞きながら、サファイアがその蒼の眼で見たのは、まさしく地獄そのものだった。 恐ろしくて声も凍るほどに、醜悪で悲惨なジザベルの姿。 引き裂かれた腹からは、血液と内臓がいっしょくたになって飛び出している。 涙を浮べた顔には、赤黒い空洞がこちらを向いていた。 そして、メスやかんしと一緒に台に置かれていたのは、小さな瓶の中で、液体に浮かぶ黒真珠 あぁ、博士。 サファイアは涙が溢れる代わりに血の気が引くのが分かった。 貴方はジザベルまで殺してしまったんですね、と。 震えているのは、恐怖の所為か、怒りの所為か。 「僕の可愛い、ピジョン.ブラッド。」 楽しそうに囁く彼の声が、聞こえる。 サファイアはぼんやりと振り返って、扉の隙間から見える彼の後ろ姿を眺めた。 みるみる涙が溢れて、視界に映る総てのものを拒否するように、歪めた。 哀しくて悲しくて、だけど愛 だからサファイアは血塗れの女神の頬にキスをした。 「ジザ、僕はきっと約束を守るよ。」 そしてサファイアは眼を覚ます。 横たわったまま視線を投げかけると、そこはいつもと同じ、光をカーテンで遮った薄暗い部屋。 だけど視界は、夢と同じように映るもの総てを歪ませていて。 のろりと、緩慢な動作で上体を起こせば、重力に従って瞳をフィルターのように覆っていた水滴が一筋零れ落ちた。 久しぶりに見た夢は、酷くサファイアを疲労させる。 眠った気などなれるはずもない。 大きすぎるベッドの上で、頼りなさそうに膝をよせて、サファイアは顔を伏せた。 眼から溢れて零れ落ちた涙が、シーツに薄い模様を作っていく。 それを拭いもせずに、だけど膝を抱えて顔を伏せたまま、サファイアは大きく呼吸をして、呟いた。 「ジザベル」 もう、どんなにその名を呼ぼうとも、答える人間なんていないということも、理解していたけれど。 |
2008/08/22 再UP |