Eyes on Me







Act.05 : Till I am stained with crimson

 禁 猟 区 





 獲物が決まると、彼の元にはどこからとも無く黒い封筒が届く。
宛名も差出人もの名前も無い、真っ黒の封筒。
中に入っているのはいつも、見たことも無い人間の写真と、やはり聞いたことの無い名前。
それは血の雨を予告する天気予報であり、葬儀屋に仕事が入る予兆だ。
いつの頃からそうなったのか、何処から届くのかは、彼は知らない。
ただ、そうすれば生きるに必要なだけの金は手に入るし、自分にはそれしか出来ないということも知っているから。
「何処から」あるいは「何の為に」など。
そんな疑問を考えたことは無かった。
 真夜中、いつもより三本多く煙草をポケットに入れて、同じくらい無造作に、手入れをしたばかりのべレッタを手にする。


「――狩りに行くの?」


男の気配を感じたのか、それとも眠っていなかったのか。
ベッドの中から声だけが起き出し、それにつられるようにして、子供が視線を向けて来る。


「何を、狩りに行くの?」


ベッドの上で、上半身だけ起こした子供が、半分眠ったままような声で、再び問いかけてくる。
普段は何に関しても反応が薄い子供が、今日に限ってはいやに食いついてくるのが煩わしくて、彼は早々にポケットの煙草を取り出すとそのうちの一本に火をつけた。


「ただのガキ。」


 それだけ答えて、今度はコートの胸ポケットに入れた写真を子供に投げてよこす。
綺麗に宙を切った写真を、器用な手つきでつかみ取って、見つめてから、子供はもう一度俺に視線を向けて呟いた。


「僕と同じ、実験道具(モルモット)だ。」
「――知り合いか?」
「顔だけ。」


 珍しく、声に感情が滲んでいたように感じだが、子供はそれを悟られるのを嫌がったのか、それともただの気のせいだったのか。
それ以上彼が応えるより早く、再びベッドの中に潜り込んでしまった。
 これから、「顔だけの知り合い」を、彼が「殺す」ということについて、この子供はどう捕らえているのか。
 いったい、こいつは何になら心動かされるのだろうかと、詮無きことを考える。
 だが、それも自分にとっては何の意味も持たないことに気付いた彼は、適当に思考回路遮断して、無言のまま、ドアを開けて出て行こうとした。
だが、不意にベッドの中から不機嫌な声が呟いて。
ほんの僅かな時間、男の足を止めた。


「フェンリルに気をつけなよ。」


 フェンリルが誰を指す名前なのか、彼には分からなかった。
だが、子供は男のことを「(ウォルフ)」と呼び、今度は「妖狼(フェンリル)」に気をつけろという。
どうにも、此の子供の周りにはケダモノが多いらしい。
それはもちろん、自分自身を含めてのことだろうけれど。






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2008/007/07   再UP




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