Eyes on Me







Act.04 : This hand seems to be a rose.

 禁 猟 区 





 思えば、自分には、手持ち無沙汰に成ると、仕事道具をバラしては組み立てることを、繰り返す癖があったのかもしれない、と。
 彼は作業を続けながら思った。
別に、仕事中に自分の獲物が使えなくなることを恐れたことは無かったけれど。
どうせ死ぬときは死ぬし、そうじゃないときはまた少し生き延びる。
結局、それだけの話なのだ。
 がちゃがちゃと音を立てて、バラした銃を組み直していると、それまでベッドの上でその様子を見ていた子供が無言で向かい側に座った。


「それ、仕事道具?」
「あぁ。」


 いくつか並べられた銃の中から、比較的小さい一つをおもむろに手に取り、子供はいかにも慣れていない危なっかしい手付きで引き金に手をかけた。
 弾は抜いてあるが、興味半分に引き金を引けば、衝撃でひっくり返るだろうなと思いながらも、彼は無言で作業を続ける。


「これを使えば、僕でも人を狩れる?」


 銃口を男に向けて、子供は眉間を狙って問いかける。
そのまま、引き金を引いたらどうなるのか、知っているようで知らない、そんな印象を伺わせる手つきで。
 弾が入っていてもいなくても、引き金を引いたその後のことなど、きっと子供は考えてもいないのだろう。
男は手を止めて視線だけを向けた。


「狩りたい奴がいるのか?」
「分からない。」
「なら、持っていても意味がないだろう返せ。」


 かちゃっと音を立てて、ぴたりと照準を合わせて、こちらに銃口を向けてくる子供の行動に、どんな意味があるのか。
男は推し量ろうとして同じ行動を返してみたが、子供は微塵も反応を見せなかった。
 まるで、向けられた銃口にどれ程の殺傷力があるのか、知りもしない、そんな表情が彼を見つめ返す。


「それじゃあ、殺したい相手が出来たら、僕にも狩を教えてくれる?」


 いつにも増して、危険で脆い氷柱のような視線で、刺すように。
互いに銃口を向けた、だけどそれがまるで意味を成さない、そんなどこか不毛な緊張感の中で。
それでもこの時は、相変わらずの無表情の中でほんの少し感情が動いたように見えたから。


「お前みたいな小兎は、狩る前に狩られるのがオチだ。俺が殺った方が早い。」


 彼が手を伸ばして子供の手の中の銃を掴むと、子供は以外に素直に銃を離した。
それは、少しだけ興味を引かれた玩具を、店の棚に戻すような、そんな感覚なのか。
それとも、コレ以外にも狩の方法があるということを、知っているという意味なのか。


「それじゃあその時が来たら、頼むことにする。」


深紅の煌きを危険のシグナルにして、子供はメスよりも鋭い視線で人を射る。
銃よりも、その眼の輝きの方がよっぽど危険だと。
彼は無表情に眺めながら銃をテーブルに戻した。






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2008/007/07   再UP




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